おくのほそ道

松尾芭蕉

象潟や雨に西施が合歓ねぶの花

元禄二年、弥生。
江戸深川の草庵をたたみ、
みちのくへ発つ。
道づれは曾良。

山を越え、川を渡り、
歌枕をたずねて北へ。
ゆくこと五か月、
道はおよそ六百里。

江の縦横一里ばかり、俤松島にかよひて、又異なり。松島は笑ふが如く、象潟はうらむがごとし。寂しさに悲しみをくはえて、地勢魂をなやますに似たり
——芭蕉『おくのほそ道』

汐越や鶴はぎぬれて海涼し
——芭蕉

波こえぬ契りありてやみさごの巣
——曾良

象潟や 雨に西施が 合歓ねぶの花

文化元年、地は揺れた。
海の底が持ちあがり、
入江は水を失う。
芭蕉が見た海は、いまはない。

海であったころの象潟を、
芭蕉の一句が、
いまに伝えている。

下へ、絵巻がひらく

Kisakata, today

いまの象潟。九十九島は水田のなかの緑の島となって残り、松の下で人が野をながめている。
にかほ市・象潟。かつて海に浮かんでいた九十九島は、水田のなかの緑の島となって残っている。松の下に腰を下ろす人物は、生成AIが描いた架空の巡礼者。

歩いた人の書いた本である。元禄二年の春、芭蕉は四十六の年に、住みなれた深川の草庵をたたみ、供の曾良とともに北へ向かった。日をかさね、道はおよそ六百里におよぶ。

憂いを、ふくむ

その旅の最北が、象潟だった。松島の島々を笑ふが如しと見た芭蕉は、雨にけぶる象潟をうらむがごとしと書いた。明るい景色の対岸にある、翳りをおびた美しさ。西施が雨に目を伏せるように、合歓の葉は暮れて閉じる。

消えた、潟

その海は、もう無い。文化元年、地は大きく揺れ、海の底が二メートルあまり持ちあがって、入江は水を失った。芭蕉が舟を浮かべた潟は田になり、島だった丘は、いまも松を立てて水田のなかに点々とある。風景もまた、過ぎてゆくものだった。海であったころの象潟を、いまに伝えているのは、あの一句である。

『おくのほそ道』象潟の一句と、いまの象潟の実写を組んだ一枚。 象潟の一句をあしらった白い長袖Tシャツ。

象潟の一句を、一枚に。

「象潟や雨に西施が合歓の花」。海であったころの象潟を、白い布の上に。いまの潟の実写と、芭蕉の十七文字を組んだ一枚。

つくっているのは47storiesJPという小さな仕事場です。日本の文学から一県にひとつ物語を選び、その一行を舞台の実写と組んで、四十七枚のTシャツにしています。秋田は、芭蕉の象潟。

価格・仕様はSUZURIの商品ページでご確認ください。

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作品討論ラジオ / #21 秋田

兄と妹が、海だったころの象潟をたずねて話します。

芭蕉が見た入江は、いまどこへ消えたのか。二人の声で、この一句のうしろにひろがる景色を辿ります。

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