人間は、この世界の中で一番やさしいものだと聞いている。
そして可哀そうな者や頼りない者は決していじめたり、苦しめたりすることはないと聞いている。
一旦手附けたなら、決して、それを捨てないとも聞いている。
母の独白
お宮へおまいりをして、お婆さんは山を降りて来ますと、石段の下に赤ん坊が泣いていました。
「おお可哀そうに、可哀そうに」
娘は、赤い絵具で、白い蝋燭に、魚や、貝や、また海草のようなものを産れつき誰にも習ったのでないが上手に描きました。
誰でも、その絵を見ると、蝋燭がほしくなるように、その絵には、不思議な力と美しさとが籠っていたのであります。
挿画は、生成AIによる描き下ろしです。
この絵を描いた蝋燭を山の上のお宮にあげてその燃えさしを身に付けて、海に出ると、どんな大暴風雨の日でも決して船が顛覆したり溺れて死ぬような災難がないということが、いつからともなくみんなの口々に噂となって上りました。
誰も、蝋燭に一心を籠めて絵を描いている娘のことを思う者はなかったのです。従ってその娘を可哀そうに思った人はなかったのであります。
娘は、疲れて、折々は月のいい夜に、窓から頭を出して、遠い、北の青い青い海を恋しがって涙ぐんで眺めていることもありました。
「昔から人魚は、不吉なものとしてある。今のうちに手許から離さないと、きっと悪いことがある」
香具師
しかし、もはや、鬼のような心持になってしまった年より夫婦は何といっても娘の言うことを聞き入れませんでした。
「妾は、どんなにも働きますから、どうぞ知らない南の国へ売られて行くことを許して下さいまし」
娘
娘は、手に持っている蝋燭に、せき立てられるので絵を描くことが出来ずに、それをみんな赤く塗ってしまいました。
娘は、赤い蝋燭を自分の悲しい思い出の記念に、二三本残して行ってしまったのです。
真夜中頃であります。とん、とん、と誰か戸を叩く者がありました。
女の長い黒い頭髪がびっしょりと水に濡れて月の光に輝いていたからであります。
それはお金ではなくて、貝殻でありました。
不思議なことに、赤い蝋燭が、山のお宮に点った晩は、どんなに天気がよくても忽ち大あらしになりました。
真暗な、星も見えない、雨の降る晩に、波の上から、蝋燭の光りが、漂って、だんだん高く登って、山の上のお宮をさして、ちらちらと動いて行くのを見た者があります。
幾年も経たずして、その下の町は亡びて、失なってしまいました。
選んだのは、まだ何も起きていない一文です。母親が子供のために岸へ近づいてくる、この童話でいちばん静かなところ。
つくり手は47storiesJP。一県に一作、原文といまの土地の写真で一枚を仕立てています。新潟は未明の、この童話です。
波打ち際の人物は、生成AIが描いた架空の巡礼者で、実在しません。