恩讐の彼方に 菊池寛

ただ土鼠のように、命のある限り、掘り穿っていくほかには、何の他念もなかった。

が、一年経ち二年経ち、ちょうど九年目の終りに、穴の入口より奥まで二十二間を計るまでに、掘り穿った。

ちょうど、十八年目の終りであった。彼は、いつの間にか、岩壁の二分の一を穿っていた。

石工共が、昼の疲れを休めている真夜中にも、敵と敵とは相並んで、黙々として槌を振っていた。

それは、了海が樋田の刳貫に第一の槌を下してから二十一年目、実之助が了海にめぐりあってから一年六カ月を経た、延享三年九月十日の夜であった。

了海の朦朧たる老眼にも、紛れなくその槌に破られたる小さき穴から、月の光に照らされたる山国川の姿が、ありありと映ったのである。

「実之助どの。御覧なされい。二十一年の大誓願、端なくも今宵成就いたした」

敵と敵とは、そこに手を執り合うて、大歓喜の涙にむせんだのである。

心の底から湧き出ずる歓喜に泣く凋びた老僧を見ていると、彼を敵として殺すことなどは、思い及ばぬことであった。

この洞門は実在します。大分・耶馬渓の青の洞門——いまも歩いて通れます。胸の一枚の写真は、その内部の実写です。

この一枚
白い長袖シャツ。青の洞門の内部、光の窓のそばに立つ人物の写真に、「ただ土鼠のように、命のある限り、掘り穿っていくほかには、何の他念もなかった。」の縦書き。
胸には洞門の内部と、誓いの一行。

胸にあるのは、掘り穿つと決めた一行と、洞門の内部の実写です。光の窓のところに、巡礼者が立っています。

つくり手は47storiesJP。大分は『恩讐の彼方に』の、この一行です。

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いまの大分・青の洞門
手掘りの岩肌が青く照らされた洞門の内部。石畳の道と手すり、光の窓のそばに人物が立ち、石碑が据えられている。
いまの大分・青の洞門の実写。
人物は、生成AIが描いた架空の巡礼者で、実在しません。
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第四十回で、『恩讐の彼方に』の大分を語っています。

#40 大分『恩讐の彼方に』を聴く