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三重 / 泉鏡花『歌行燈』

Izumi Kyoka “The Song Lantern”
First published:1910
Location:Kuwana, Mie, Japan

作家
泉鏡花

初出
1910年

旅の道行きと芸能の気配の中で、現実と幻がゆるく溶け合う幻想譚。人の情は濃いのに、どこか手が届かない距離があり、その曖昧さが美になる。語りは華麗で、情景は濃密だが、最後は説明で閉じない。鏡花らしい、官能と怪異、懐旧と不安が絡む世界で、読者は夢の輪郭をなぞることになる。

桑名市 大黒屋

水に乱れて、灯に揺めき、畳の海は裳に澄んで、塵も留めぬ舞振かな。

英訳

Disordered by the water, wavering in the lantern glow, the tatami transforms into a serene sea beneath the hem of her robe— a dance of such purity that it seems to wash away all earthly dust.

サマリー

引用の概要と背景

この一節は、物語のクライマックス、芸妓のお三重(みえ)が、能「海士(あま)」の玉之段(たまのだん)を舞う場面での、神がかった美しさを描写した一文です。 鏡花文学の真骨頂である「幻想と現実の融合」と、芸術が極致に達した瞬間の、俗世を離れた浄化された美が見事に表現されています。

文脈

恩地喜多八(きだはち)を探して旅をしていたお三重と、その叔父・宗田源三郎は、桑名の宿「湊屋」で、按摩になりすました喜多八と遭遇します。 源三郎の謡(うたい)に合わせてお三重が舞い始めますが、その舞が佳境に入り、内面の気迫が最高潮に達した瞬間、張り詰めた心のテンションと呼応するように、お三重の髪を結っていた元結(もとゆい)がプツリと切れてしまいます。黒髪がバラバラと肩に崩れ落ちるというハプニングさえも、彼女の舞の一部であるかのように昇華され、その場が海中の幻想世界へと変貌する様子が描かれています。

解説

この一文は、物理的な現象(髪が解ける)を、能の演目「海士」の情景(海の中)と重ね合わせ、現実を超越した美として捉えています。

「水に乱れて、灯に揺めき」:解け落ちた黒髪が揺れる様を、海中の藻が水流に靡く様子に見立てています。行灯(あんどん)の揺らめく光が、海底に差し込む光のように幻想的な効果を与えています。

「畳の海は裳に澄んで」:お三重の舞の力によって、単なる宿の座敷(畳)が、清らかな海原へと変貌しています。「裳(も=着物の裾)」があたかも澄んだ水に洗われているかのような、清冽なイメージです。

「塵も留めぬ」:ここでの「塵」は、現実世界の汚れや俗世の雑念を指します。髪が乱れるという「乱調」の中にありながら、その姿は一点の曇りもなく、俗世間から完全に切り離された、凄絶なまでに純粋な美が現出したことを示しています。

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