
ロケーション
静岡県熱海市
恋と金が正面衝突する、近代都市の通俗性と残酷さを背負った恋愛物語。愛を選ぶはずだった関係が、身分や金銭、世間体によって変質し、怒りと執着が増幅していく。登場人物は単純な善悪では割れず、弱さが選択を歪める。華やかな語り口の裏で、近代の価値観が人の心を切り裂くさまが見える。

宮は再び恋き貫一の名を呼びたりき。
英訳
Miya once more called the name of her beloved Kanichi.
サマリー
引用文の概要と背景
この一節は、物語の中盤(中編)、富山唯継(とみやただつぐ)と結婚し、誰もが羨む富豪の妻となったお宮(宮)が、決して満たされることのない空虚さと後悔の中で、かつての恋人・間貫一(はざまかんいち)への尽きせぬ愛慕を吐露する場面の結びの言葉です。物質的な豊かさと引き換えに失ったものの大きさを痛感する、宮の悲劇性を象徴する一文です。
文脈
貫一を裏切って富山に嫁いだ宮でしたが、豪奢な生活や夫の寵愛も彼女の心を埋めることはできませんでした。彼女の心にあるのは、熱海の海岸で自分を蹴り飛ばし、激しい言葉で罵って去っていった貫一の面影だけです。 宮は、貫一が自分を恨み、堕落して高利貸し(金色の夜叉)になったという噂を聞き、罪悪感と恋しさに苛まれます。夫・富山の留守中やふとした孤独な瞬間に、彼女は抑えきれない感情に突き動かされ、今や自分を憎んでいるはずの貫一の名を、祈るように、また懺悔するように呼び続けるのです。
解説
この短い一文には、宮の救いようのない孤独と、物語の核心である「愛と金」の対比が凝縮されています。
「再び」の意味:この言葉は、宮が貫一の名を呼ぶのが一度や二度ではないことを示しています。彼女の生活の裏側で、この行為が絶えず繰り返されている常習的な苦悶であることを暗示しています。
「恋き(こいしき)」:貫一は今や彼女を恨む「恐ろしい復讐者」ですが、宮にとっては依然として「恋しい」存在のままです。この形容詞が、彼女の裏切りが金銭的な事情や親の意向によるものであり、心情的な愛は貫一にあり続けていることを強調しています。
過去の助動詞「き」:文末の「呼びたりき」の「き」は、過去の事実を厳粛に、かつ詠嘆を込めて語る響きを持っています。これにより、彼女の悲しみが一時の感情ではなく、運命的に刻まれた事実であるような重みを読者に与えています。
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