
ロケーション
岐阜県高山市
美と欲望、芸術と残酷さが絡み合う異形の寓話。男の執着や創作衝動が、姫という存在に吸い寄せられ、甘美さと不気味さが同居する展開へ進む。道徳的な教訓に回収されず、むしろ人間の根源的な衝動を露出させる。読後に残るのは、物語よりも、感覚の粘度と不穏な魅力だ。

好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。
英訳
You must curse,kill,or fight for the things you love.
サマリー
引用文の概要と背景
この一節は、物語の結末(ラストシーン)、主人公の耳男(みみお)が夜長姫(よながひめ)の胸を錐(きり)で突き刺した直後、瀕死の姫が耳男の手を取り、微笑みながら遺した言葉です。この物語における最大のテーマであり、安吾独自の凄絶な「芸術論」と「愛」の定義が語られる、作品の核となる場面です。
文脈
疫病が流行し、人々が苦しみ死にゆく様を高楼から眺めて楽しむ夜長姫。彼女は耳男に、かつて彼が怨念を込めて行っていたように、蛇を裂いて生き血を飲むよう命じます。無邪気かつ残酷に死を愛でる姫の姿に、耳男は「この姫を殺さなければ、人間世界はもたない」と悟り、同時に彼女の恐ろしい美しさに魅入られます。 耳男は決意して姫を抱きすくめ、その胸を突き刺します。しかし姫は抵抗するどころか、「サヨナラの挨拶をして、それから殺して下さるものよ」とニッコリ微笑みます。そして、涙を流す耳男に対し、なぜ彼の作った「バケモノ(怨念の像)」が傑作で、「ミロク(穏やかな仏像)」が駄作だったのか、その理由を明かすようにこの言葉を告げて息絶えます。
解説
この言葉は、対象との激しい葛藤や緊張関係こそが、真の芸術や愛を生むという逆説的な真理を説いています。
「好く」ことのパラドックス:通常の愛や創作活動における「好く」という感情は、対象をただ愛でたり、肯定したりすることだと捉えられがちです。しかし夜長姫は、真に好く(愛する・極める)のであれば、魂がぶつかり合うほどの「殺し合い」や「呪い合い」のような極限の緊張感が必要だと説きます。
芸術の極意:耳男が姫への恐怖と殺意(呪い)を込めて彫った「バケモノ」が傑作となり、姫への憧れや好意(穏やかな肯定)だけで彫った「ミロク」が魂の入らない駄作となったのはそのためです。
肯定としての死:姫にとって耳男に殺されることは、耳男が自分に対して全霊を傾け、魂の底からぶつかってきた証であり、最高の「愛の成就」でした。安吾は、破壊や死といったネガティブな要素を通過して初めて到達できる、究極の美や生の実感をこの一言に凝縮させています。
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