
ロケーション
長崎県長崎市
海を渡る移動の時間を背景に、文明や都市、人間観察の断片が冷ややかに、しかしどこか粋に綴られる。異国趣味の高揚より、距離を取った視線が勝ち、作者の美意識が判断基準として前に出る。旅は自己発見というより、世界の俗を測り直す作業になる。海という境界を挟んで、近代の孤独と享楽が同居する。

人間から遠ざかりたかつた。
英訳
I wanted to get away from people.
サマリー
引用文の概要と背景
この一節は、随筆『海洋の旅』の冒頭部分(第一章)に登場する、旅に出る動機を語った言葉です。
文脈
冒頭に掲げられたボードレールの詩句「自由の人よ。君は常に海を愛せん(Homme libre, toujours tu chériras la mer.)」 が示す通り、この作品は海と自由をテーマにしています。 荷風は、日本の社会や人間関係の煩わしさ、特に当時の文壇や社会の窮屈な道徳観・偽善から逃れるために、船旅に出ます。陸地(社会)にいる限り逃れられない「人間」という存在や、その営みから物理的にも精神的にも距離を置き、ただ青い海と空だけに囲まれた孤独な時間を求めた切実な心境が吐露されています。
解説
「人間から遠ざかりたかつた」という簡潔な一文は、荷風の徹底した厭世観(ペシミズム)と耽美的な逃避願望を象徴しています。 彼にとって「海」は、単なる移動の経路ではなく、人間社会の汚れや騒音から隔離された、純粋で自由な聖域でした。 この後に続く、船上から眺める日本の風景が「いかにも青々として、いかにも優しく」 見えると語る部分と対照的であり、人間から離れて遠くから眺めることで初めて、故国や世界を美しく感じることができるという、彼の逆説的な美意識と孤独な精神性がよく表れています。
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